2021年1月15日金曜日

価格決定の方法

北野です。

企業経営を行う上で最も重要なのは、倒産しないことである。企業経営が危うくなる場合、外部要因と内部要因のいずれか・両方によるものが多い。


外部要因とは、今回の新型コロナウイルスのように、企業努力では対応できない要因を指す。一方で内部要因とは、数値管理の甘さや怠慢など、企業努力で対応できる要因を指す。


現在、倒産統計で出ている業種で飲食・宿泊などが多いのは、元々の内部要因に課題があった中で、外部要因での課題が急速にやってきたことがあると言える。


動物病院の場合、影響を受けている病院は、現状少ないと言えるが、今後は分からない。もしもに備えて経営体力をつけておくことが必要になるであろう。


「値決めは経営」という稲盛和夫氏の言葉にもあるように、値決めによって企業の盛衰が聞かると言っても過言ではない。価格決定については今のうちに対応しておくことをおススメする。景気が悪くなってから改定すると悪影響も及ぼしやすい。今から春までの間に負えておきたい。


動物病院の場合、科学的な値決めではなく、感覚的な値決めのことが多い。労働集約型の産業であるうちはよいが、設備投資も増え、人件費も上がり、労働基準法も遵守し、となると従来の価格決定方法では問題が出てくる。10年前と料金が変わっていない場合は要注意である。


なお、東京の場合は現在の最低賃金が1013円、10年前の平成22年は821円であり、約23%(200円程)上昇。1人当たり1カ月約3.4万円給与が上昇、年間だと40万円程になる。5人従業員がいると年間で人件費が約200万円増えている。価格がそのままで売上もそのままであった場合は、200万円の利益が減少していることになる。


実際は他の要因も考慮すべきなので上記のような単純計算にはならないが、価格決定の重要性はご理解いただけると思う。


ここで人件費の問題を出しているのは、価格決定には人件費が大きく影響するからである。

売上を因数分解すると、売上=件数×回数×単価となる。価格は単価にあたる。多くの場合がマーケティング策により件数や回数を向上させる取組を行うが、実は単価も適切に変えておかないと、件数が増えるたびに利益率がどんどん減少していく事態にもなりかねない。忙しいけれど実入りは少ないという事象である。もちろん医療であるため、診療を減らすとか検査をしないということを推奨することではない。


1診療項目ごとの単価を決める際に多くの場合は直接原価を基にすることが多い。血液検査であれば試薬の原価を加味して値決めするといった感じである。ここで忘れてはならないのが、1診療項目ごとにかかっている人件費である。どの職種がどれほどの時間をかけて行うかによって1診療項目における人件費が変わってくる。


前述のように最低賃金も年々上昇しており、また毎年定期昇給を行うことも多いであろう。


例えば血液検査5,000円というケースで見てみよう。前提条件として、試薬などの原価を1,500円(30%)とすると単純利益は3,500円(70%)となる。この血液検査を行うために獣医師が採血と結果説明で15分、看護師が保定や検査機器操作に10分を要するとする。

便宜上獣医師と看護師の給与は同一にしてある。


【パターンA】10年前の最低賃金:821円


価格:5,000円 ― 原価:1,500円 ― 人件費:350円(14×15+14×10)

= 利益:3,150円


【パターンB】現在の最低賃金:1,013円


価格:5,000円 ― 原価:1,500円 ― 人件費:425円(17×15+17×10)

= 利益:3,075円


このように、価格が同一であると人件費が上昇している分だけ利益額が減少している。

1検査あたりで見れば僅かな数字(75円減少)であるが、年間1000件の血液検査を行うと仮定すると、約8万円の減収となる。当然、他の検査や診療も行うため合計すると数百万円単位の減収となることも珍しくない。


このように、値決めの際に所要時間や誰が行うかなどの視点を含めておき、病院の人件費率に合わせて単価改訂を行わないといつの間にか利益減少となっていることも少なくない。

忙しいのに、利益が減少しているなという場合には、一度自院の価格決定方法を見直していただきたい。